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名前で呼ばれたこともなかったから ―奈良少年刑務所詩集― 新潮文庫

 

 

 

名前で呼ばれたこともなかったから

―奈良少年刑務所詩集―

新潮文庫

 

 

 

あたたかい手

 

ねえ かあさん

あなたの手は

ときに 強く抱きしめてくれた

ときに やさしく涙をふいてくれた

ときに 怒られ 叩かれ 冷たい手だと感じたけれど

どんなときでも

あなたの手は あたたかい手

 

そんな手を持つあなたが 大好きです

 

 

父と母から教わったこと

 

「あんたなんか産むんじゃなかった」という 母の言葉

ぼくを湖に突き落として殺そうとした 父の行動

小さい頃から ぼくは

「生きていてはいけない人間」だと 教えられました

 

入水 首つり 薬の大量服薬・・・

病院のベッドで 母からかけられる言葉は

「まだ生きてたん?死ねばよかったのに」でした

 

大人は 誰も助けてくれなかった

僕には 生きる意味も価値もありません

 

いまでも 考えは変わっていません

ぼくは 必要のない人間です

ただ 生きていくだけです

これからも ずっと

 

 

 

言葉

 

「いいんだよ」

「がんばったね」

「よくやった」

この言葉が ほしい

この言葉が ボクを幸せにする

 

「お前はアカン」

「でき悪い」

「お前はいらない」

この言葉は いらない

この言葉は ボクを不幸にする

 

嫌な言葉を言われると 自信をなくし

自分自身が嫌になる

好きな言葉を言われたくて 行動し

ボクは ボクを見失う

 

一つ一つの言葉が ボクを造る

一つ一つの言葉が ボクを壊す

 

 

(寮美千子・編  新潮文庫)

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